桂川通信コメント
桂川通信コメント
作成日:2023/10/16
年収の壁



 パート・アルバイトの社会保険(健康保険、厚生年金保険等)加入をめぐり、資格取
得の要件を下げるなど、厚労省は徐々に制度の拡充を図っています。しかし、要件引き
下げによる社保加入対象の拡充は法人や従業員の負担増につながり、対応に困っている
事業所も少なくない。そんな折、厚労省が9月末に公表した「『年収の壁・支援強化パ
ッケージ』について」等を踏まえ、見通しを概観することにしました。

 まず、年収(額面)のレベル順に現行の「壁」を並べてみます。(1)100万円…住
民税課税が発生/(2)103万円…源泉所得課税が発生/(3)106万円…パートの社会
保険加入の適用拡大/(4)130万円…健康保険被扶養、国民年金3号被保険者、つま
り配偶者(大半は夫)の扶養から外れざるをえず、本人自らが健康保険、厚生年金保険
に加入する現行の額面年収の下限。

 配偶者控除を含む税金関係は横に置くとして、社保でいえば、主に「(3)106万円
」が今回のテーマ。これはいま従業員101人以上の社保適用事業所(来年10月から「51
人以上」に引き下げ)で働くパート・アルバイトに一定条件下で適用されています。月
額所定賃金8.8万円以上、週所定労働20時間以上(=雇用保険加入の要件)、雇入れか
ら2カ月以上を対象に、これらに該当すると扶養から外れ、代わって社保に入ることに
なる。しかも、来秋からの「51人以上への引き下げ」はその後も「50人以下」へと繰り
返される可能性があります。

 フルタイム(週40時間)の半分を働き、社保加入の夫の扶養に入って(自ら健康保険
料を負担しなくても)家族保険証が使える。また、年金保険料を納めなくても(納めた
ことになって)基礎年金の受給資格が得られる3号被保険者でおられるという恩恵が(
会社が一定以上の規模だと)額面年収106万円以上で消滅し、逆に自らの社保加入を余
儀なくされます。京都府の場合、概算すれば月々最低で約1.25万円、年間で約15万円の
社会保険料が賃金から天引きされ、明らかな手取りの減収になります。

 扶養から外れて社保に加入するメリットは大まかに3つ。まず、被扶養配偶者のまま
では基礎年金だけ。ここに厚生年金が上乗せされ、将来の年金額が増えます(しかし、
先の話です)。次に、傷病の初診日が厚生年金加入時なら、障害の程度次第では障害厚
生年金が受給でき、「300月補償」などがあって国年だけに比べて年金額も大きくなり
ます(しかし、望んで障害者になる被保険者はいません)。

 さらに、健康保険(中小企業は大半が協会けんぽ)では、扶養や国保では受け取れな
い傷病手当金(病気休業前の給料レベル=標準報酬月額の約3分の2を最長18カ月支給
)や出産手当金がもらえます。但し、傷病手当金または出産手当金が出るから健康保険
加入を選択するという例はまず見かけません。  つまり、社保加入のメリットは予想されても、年15万ほどの手取り減に直面するとい うデメリットも大きい。被扶養の側からいえば、事実上デメリットの方が大きいと思う のが普通ではないか、ともいえます。なので、額面年収が130万円に届かないよう、毎 年の後半、勤務時間を減らして年収を抑制・調整するという、被扶養を維持するための 工夫を図るパートさんも少なくない。このため、厚労省の「支援強化パッケージ」に盛 り込まれる施策には「事業主の証明による被扶養者認定の円滑化」が導入されることに なりました。  「被扶養者認定」とは、仕事が繁忙期に入ってパートさんらの時間外手当等が増えた とき、事業主が「今回の賃金の増加は一時的なもの。社保加入の要件を満たしたわけで はない」という証明を出せば、扶養のままで居続けられる、という一種の猶予措置です (証明が出せるのは同一人には連続2回まで、とのこと)。  キャリアアップ助成金の拡充などを合わせた「支援強化パッケージ」の細目は、恐ら く11月までには固まると見込まれます。扶養のシステムに慣れた目からみれば、正直言 って、望む方々少数の、やむをえない施策の流れともいえます。  複数の事業所から「ミニ説明会を」との依頼も入っていますので、情報の確認を続け ますが、具体的には当メルマガの「人事労務ニュース」等でも内容は更新されるはず。 尻切れトンボになりましたが、当ブログでは遊んでばかりのように見える私も、調べる ときは調べる、ということで長くなりました。ご寛恕願います。
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