桂川通信コメント
桂川通信コメント
作成日:2023/09/18
ことば寸評 その3




 以前まとめた「気になる言葉」の3回目。情けないことに最近、テレビは観ず、紙の
新聞はほとんど触らず、各種ニュースやお話はネットから、という日が続いています。
そこでチェックしたのをいくつか。

【岡田監督の一問一答】

 先週やっと阪神タイガースがリーグ優勝を決めました。慶事です。苦節18年、私が酸
いも辛いも清も濁も併せ呑む、懐の深いシルバー(爆笑)になったのも、紆余曲折甚だ
しい阪神の応援を懲りずに静かに続けてきたおかげ。今年は地力をつけたチームを岡田
監督がシブい采配でリード。その強さを探るためか、ネットでもスポーツ紙を中心に語
録を「一問一答」で逐一掲載する習わしができたようです。

 しかし、録音したままを細大漏らさず採録したやり取りはどうだったか。岡田監督は
よくしゃべりますが、能弁とは言えず、滑舌も悪く、何を言っているのか分からない時
がある。語彙が少なく、抑揚にも乏しい。しかも、囲みの問答で記者らを相手に習慣的
に「お前」を連発するのはいかにも大阪人。「おーん」はむしろ「うーん」では? 「
アレ」は流行語になり、私など早くから「くどい。もういい」と言いたくなるほど。選
手の活躍や試合展開には楽しい場面が多々あったとはいえ、いたずらに細かい一問一答
はなくても可では、と思うに至りました。

【前を向いた】

 ネットのスポーツ及び社会派系の記事に最近よく出てくるのが「前を向いた」。取材
される相手がめげずにあきらめない様子を「『次は頑張ります』と前を向いた」とシメ
ます。「決意を語った」とか「意欲をみせた」でもいいのに、判で押したように「前を
向いた」。流行になっているようです。すると、あきらめたときは「下を向いた」、気
に入らないたときは「横を向いた」になるのか。最初に誰かが「前を向いた」を使い、
しゃれたシメ方だと思ったとしても、繰り返し使うのはいかにも工夫がありません。

【めっちゃ、きれい】

 これも同じ言葉の繰り返し。山歩き系のYouTubeサイトで、とある山好きが山頂など
で盛んに口にするのがこれ。「めちゃくちゃ、きれい」も一部混ざりますが、とにかく
こればっかり。他に言いようがないのかと画面を観ながら呆れています。「迫力がある
」「大きい」「雄大」「豪快」「かっこいい」「立派」「見事」「絶景」「途方もない
」「まるでヒマラヤ(これは言い過ぎ)」など、いくらでも感嘆表現はあり、さらにそ
れらのバリエーションも多数ありえます。

 「めっちゃ」は20世紀末以降、関西を中心にやたら使われるようになった副詞句のよ
うです。むかしは「目茶苦茶」と言うことはあっても「めっちゃ」なんて誰も言わなか
った。別に使ってもいいとは思うものの、同じ言葉を何度も使うのは芸がない、という
ことです。

【言及した】

 やはりネット上の記事によく出てきます。誰かが何かについてコメントする、意見を
いうときに「言及した」とつけます。訓読み風に「言い及ぶ」はまれに使うとしても、
日常会話で「言及(げんきゅう)する」なんて生硬過ぎてほとんど使わないはず。「私
は彼について次のように言及した」などと話すヒトがいたら、よほどの言葉知らずかキ
ザ男(女)です。

 「言及した」なんてカッコつけずに、単に「(について)語った」「話した」で何の
支障もありません。「前を向いた」と同じように、流行しているから書き言葉でつい使
っているだけ? たまにニュースの原稿読み上げで聞くときもあり、そんな折は「げん
きゅう、って何ですか? 給料が減ったのですか?」と聞きたくもなります。

【災害級の台風】

 ニュース報道の特性の一つに「煽る(あおる)」があります。台風の襲来に対して「
たいしたことはない」などとコメントすると、被災のスケールが大きかったとき責任問
題になりかねません。なので、低気圧の数値(ヘクトパスカル)や暴風雨圏の大きさに
比例した表現の等級(「非常に強い大型の」台風など)を踏まえつつ、あおる表現が混
ざることになります。

 「猛烈な勢力を維持したまま北上」あたりは以前からありました。しかし最近は毎年
のように「10年に一度」が登場したり、「壊滅的な」「災害級」「(観測)史上最悪」
などの派手な表現が登場します。ここから「凶悪な」「激烈無比」「悪夢さながら」「
地獄のような」みたいな表現へは、あと一歩です。メディアの大袈裟な表現は習慣的に
割り引くのが賢明です。どんな場合でも。
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