桂川通信コメント
桂川通信コメント
作成日:2021/04/03
就業規則の費用



 久しぶりに本業に戻って、就業規則の話。それも、私ども社労士が請け負うことの多い就業規則の作成・変更の「費用」について。長くなりますので、興味のない方は飛ばしてもらって差し支えありません、

 厚労省は4月1日、「働き方改革推進支援助成金」という、労災保険を原資とする助成金シリーズの新年度版の申請マニュアル等をHPにアップしました。コロナ禍対応の休業手当を補てんする雇用調整助成金や、根強い人気のキャリアアップ助成金のカゲに隠れてはいるものの、残業減らしや年休の取得増をテーマに、労働能率を上げる機械器具を買ったりする「改善事業」の費用を上限付きで75−80%まで補助するという、地味でシブめの、クロウト好みの助成金です。

 この改善事業の費用で、昨年度まで計上を認められていた代行申請の社労士自身による就業規則の作成・変更(上限10万円)、事業主に対する労務管理担当者研修(同)、労働者に対する研修(同)などが対象から外され、さらに社労士事務所が別法人化して経営しているIT関連の販売会社が提供する「ICカードを用いた勤怠管理システム」等も対象から外す、などの改変がありました。

 簡単にいうと、就業規則等を自ら作成・変更・実施した、社労士に支払う自作自演風の費用は助成の対象には含めない、ということです。理由として申請マニュアルは「不正の発生を防止する観点から」と明記し、昨年度までの多数の案件の中に不正を疑わせる、または実際に不正が発覚した申請があったことを窺わせます。

 私はこのシリーズと付き合ってもう5年になりますが、当初は就業規則の作成・変更の費用として上限20万円まで認められていたことを思えば、180度のスタンス転換です。いささか驚きました。

 とはいえ、就業規則の作成・変更にそもそも10万とか20万の費用がかかること自体が、あえていうなら、時代遅れのようにも思えてきます。社労士事務所等のタイプライターで就業規則の条文を打ち出し、製本化していた昔ならいざ知らず、今はサンプル自体がネット上から多数入手できます。しかも、WORDでまとめられたサンプルは自在に編集できますし、さらにWORDからPDFだけでなく、PDFからWORDへのファイル変換も容易になりました。監督署への届出も電子申請で3クリックほどで済ませられます。

 就業規則も賃金規程もいわば職場のルールブックですから、事業運営や法改正、時代の趨勢に合わせてどんどん改定していくのが実際的。製本化など、ムダとしかいえません。仮に社労士から「就業規則は会社の憲法。きちんとしたのを作って財産に」などと持ち掛けられたら、ご遠慮するのがノーマルです。

 私なりの実感でいえば、就業規則の作成・改定にさほどのコストは要せず、つまりいくらでも安くでき、逆にいえば、サンプルをベースにした中小企業用の8頁ほどの就業規則の作成に15万とか、条文を1本挿入するだけの改定に5万とかを請求するのは(前から何度も書いたり、言ったりしていますが)あざとく、あこぎです。

 私自身ものを書いたり、調べたりすることを長くナリワイとしてきましたので、サンプルを基にした、現行の法規に従った就業規則の編集など、別に難しい作業ではありません。人事労務のお手伝いを始めた事業主のための就業規則の作成も、既存分の改定も、ほとんど無償のサービスでこなし続けています。あるベテラン社労士が「まっとうな就業規則を作り上げるには、100万ほどの費用を覚悟すべし」と言っていましたが、大企業用の数十ページの大冊の編集ならともかく、中小零細企業の事業主には、タチの悪い冗談にしか聞こえないはずです。

 就業規則の作成・改定費用等は、助成金の対象にはしない、という厚労省の今回の方針表明に対し、一種の既得権に固執している同業者たちはどう対応するのか、料金の自由化前から維持されてきた相場はなしくずしで崩落していくのか。そのあたり、見ものではあります。
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