桂川通信コメント
桂川通信コメント
作成日:2018/05/18
南京事件



今回も面倒な話です。
1937年の初冬に起きたとされる中国本土での「南京事件」。読み進んでいる故船戸与一さんの長編小説『満州国演義5』に、日本軍による残虐な「南京大虐殺」の描写が出てきます。

ご承知のとおり、南京事件には虐殺があったかなかったかで「肯定派」と「否定派」がおり、しかも殺されたとされる中国人軍民の人数にも「30万人」から数百人レベルまでの極端な差があります。

史実として確定していない、この事件に触れようと思ったのは『満州国演義』に触発され、日テレの事件記者、清水潔さんの番組取材ルポ『「南京事件」を調査せよ』(文春文庫、2017年12月)を読み始めたのがきっかけです。かなり以前からこの事件についてはさまざまなリポートを閲読しており、従前からの見方を改めて確認した、とも言えます。

結論からいうと、私は「30万人」は誇大だとしても、『満州国演義』や『「南京事件」を調査せよ』が示すとおり、市民を含む(万、あるいは十万単位の)中国人が殺害された蓋然性が高く、それは「南京大虐殺」という呼称が不自然ではない規模だったのでは、と考えています。

中国側が証拠だとする写真多数が政治的な宣伝(プロパガンダ)のための「ねつ造」だとしてもそれをもって事件はなかった、あるいは、国民党軍と日本軍の間で苛烈な戦闘があったこと事実だとしても無辜の市民を巻き込んだ大規模な虐殺などなかった、という否定派の主張には、「そうであれば良かったのに」という願望の反映以上の意味が見出せず、結局のところ乗れそうもありません。

南京攻略の前、北京郊外の街で200人を超える在留邦人・朝鮮人が中国側に短時間のうちに惨殺された「通州事件」、1万人近い陸海軍の戦死者を出した「第二次上海事変」による中国側に対する復讐心と憎悪の激しさは、私にも想像できます。それは「日本人が虐殺に手を染めるはずがない」という、根拠のない思い入れをくつがえすものだったのではないか。思い上がる支那を懲らしめるという宣伝文句に同調し、陸軍の下士官による「百人斬り競争」に興奮していたのが、当時の軍民です(全部だとは言いませんが)。

建国から敗戦までを描く『満州国演義』全9巻の3分の2まで到達。昭和前期の軍民のむごたらしい一面をいやになるほど繰り返して描く近現代史小説ですが、確定的な事実には迫れないとしても、どこまでが事実だったのかを認知する努力は重要だ、と思います。

お問い合わせ
■高田社会保険労務士事務所/■〒612‐8083 京都市伏見区京町6‐51‐1 ハイツ美好103/■TEL&FAX 075-748-6068/携帯電話090‐9881‐5702

メールでのお問合せ