桂川通信コメント
桂川通信コメント
作成日:2017/01/17
長時間労働



昨秋以降、大手広告代理店、電通の女性社員(当時24歳)の「過労自殺」がニュースでずっと取り上げられています。女性社員が過酷な長時間労働を強いられ、飛び降り自殺したのが一昨年の暮れ。電通本支社に対する各労働局のガサ入れは、女性社員の自殺に対する労災認定がきっかけでした。とはいえ、広告代理業界の長時間労働は今に始まったことではない、というのは昔からの常識ともいえます。

ニュースでは、電通社員の匿名のコメントも扱われていました。目にとまったのは「我々はクライアント(顧客)第一。クライアントの要求は拒めず、何にもまして優先される」というものです。広告の質の維持、一方での手直しの要求や納期の繰り上げなどは、制作の最大手であってもむげには逆らえず、基本的には従わざるをえない。広告代理業界は、クライアント獲得のための競争と同時に、案件を発注したクライアントの意向を重視し、依頼や要望に最大限応えていく、という関係づくりが仕事上の原則だと聞きます。

私は前職時代、電通と競合する仕事をしたことはないものの、電通の提案力と、顧客のニーズに細かく応えていく行動力のすごさは間接的に幾度も聞いています。全体としての能力の高さ、対応の速さが国内1位のシェアを握るガリバーの原動力だったのでしょうし、そこから生まれる無理が上下を問わない伝説的な長時間労働につながっている、と思われます。「クライアント第一」であるがために「仕事の厳しさをクライアントに責任転嫁できない」というジレンマが、際限のない長時間労働に姿を変えていた、とも言えます。

電通に限らず、広告代理業、あるいは広くサービス業全般に、顧客第一主義が風土と化して息づき、それが企業経営の根幹に位置付けられている以上、長時間労働の悪弊は改善されないようにも思えてきます。しかも、顧客第一という志向は、対面型の民間企業であるなら当たり前であり、経営上、ネガティブなものだとは言えません。残業なし、休日出勤なしに切り換えてかえって労働生産性が上がった、という事例も耳にはするものの、残念ながら、レアケースです。

電通の女性社員を自殺に追い込んだのは何だったのか。人手不足のしわ寄せで長時間労働を強いられた、という批判は出ていませんので、これは結局、労働時間管理を任されていたはずの上司たちの責任だった、ということになりそうです。居丈高なパワハラ発言も繰り返されていたようですし。「世間を騒がせた」などという空疎な決まり文句で社長さんが頭を下げることよりも、女性社員の職域を仕切る上司たちの責任追及が先のように思えてきます。

今回は材料不足のため、抽象的な書き方に終始しました。仕事が楽しいものなら長時間労働など何でもないという、これまで数回当欄で書いてきたザレゴトは、今回は持ち出しません。むかし嬉々として長時間労働を繰り返していたのは「クライアント第一」ではなく、半ば自由業のような感覚で単に自分が面白がっていただけだった、とも言えます(おおむね社外にいましたので、要領よくサボっていましたし)。自殺直前の女性社員の睡眠時間は連日2時間だったとのこと。そんな働き方では、心身ともに破壊されかねません。
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