桂川通信コメント
桂川通信コメント
作成日:2016/10/16
同一労働同一賃金



また硬い話です。
正社員と同じ仕事なら、パート・アルバイトであっても同じ給与支払システムで対応すべきだ、という「同一労働同一賃金」論が話題になっています。政治や経済界・労働界ではその方向で論議を進めよう、という流れが兆しているようです。一方では、「同一労働同一賃金」など、聞こえのいい、抽象的なスローガンで終わってしまうのでは、との懸念もついて回ります。

日経朝刊が今月上旬の企画「経済教室」で、「同一労働同一賃金の論点」を2回に分けて紹介しています。<上>は水町勇一郎・東大教授(労働法)によるオーソドックスなまとめ。日本の雇用現場では、正社員と非正社員(パート・アルバイト等)の賃金格差に対し、合理的とは言いがたい差別が認められた場合、労働行政や司法がそれらを規制し、是正を求めていく方向にある。しかし残念ながら「同一労働同一賃金」という角度から賃金体系を見直し、改善していく、うまい方法論は見つかっていない、というスタンスです。

一方、<下>は、権丈英子・亜細亜大教授(社会保障・労働経済学)の「オランダ、労使合意で推進」。アムステルダム大学で経済学博士号を取ったという研究者で、フルタイムの労働者と、その階層より労働時間の短い「非典型労働者」の時間あたり賃金の格差をどんどん縮めていった、というオランダの政策を取り上げ、これら一連の労使合意の手法が参考にならないか、という論考です。こちらは読みでがありました。

権丈教授は、オランダは1980年代からパートなど非典型労働者の待遇改善(時間あたり賃金の均一化など)に向かった、それは労使双方がそれぞれの利益や効率を求め合うことの危うさを察知し、歩み寄って出来上がったシステムだ、と概括します。そのうえで、日本では「社会保険制度の短時間労働者に対する適用除外の仕組みは、企業側に非正規労働を活用する強いインセンティブ(誘因)を持たせている」と言います。

難しい言い回しで、何のことか分かりませんので、書き換えてみます。つまり、日本では、週の労働時間が30時間未満なら、狭義の社会保険(年金と健保等)に入らなくてもいい。企業にとってはその分、社会保険料の負担から免れるし、労働者にも、共働きの配偶者の扶養に入れる、という意味で、線引きは受け入れられている。だが、この社会保険制度の矛盾が非正規労働を増やす原因(の一つ)になっている、つまり社会保険に入らなくてもいいパートのままの方が使用者側にはプラス、という制度自体がおかしい、というわけです。

週30時間未満という線引きは今月1日から週20時間未満に下げられました。労働者501人以上、という限定付きで。私ら開業社労士が社会保険手続きなどを実務で受託する先に、501人以上という大きな会社はほとんどありません(大きな会社は大抵自前で手続きするか、勤務社労士に手続きさせています)。

とはいえ、この501人以上という線引きがいずれ徐々に引き下げられていき、零細・中小企業も近い将来、対象に含まれていく可能性があります。そのとき、零細・中小企業はどう対応すればいいのか、いずれまた考えてみたい、と思います(逃げるみたいで恐縮です)。

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