桂川通信コメント
桂川通信コメント
作成日:2016/10/01
年金受給資格期間の短縮



年金の受給資格期間が25年から10年に短縮されます。9月26日の閣議で決まり、施行は来年の8月1日の由。保険料未払期間を除いて25年以上が要件だった受給資格期間、つまり年金がもらえるようになる期間が一気に短くなります。いい話です。消費増税との絡みで延期されていましたが、増税が3年後の平成31年10月まで再々延期されたのを横目に、こちらは年金機能強化法に基づいて来年実施、ということになりました。

10年近く前から問題になっていた「無年金者」は約120万人。このうち年金の支給が始まる65歳になっても老齢基礎年金を受け取っていない人は推計で約42万人。厚生年金に入った履歴があっても、国民年金の保険料払込済み期間(+免除期間+カラ期間)が原則25年以上なければ、つまり25年に1カ月でも届いていなければ年金が受け取れなかった方々でも、来年夏からは10年が確認され次第、老齢基礎年金(+老齢厚生年金)が支給されることになります。年金をめぐる矛盾(?)の一つが緩和されることになりました。

この場合、老齢基礎年金はどれだけもらえるのか試算すると、国民年金は20〜60歳の強制加入が建て前なので、40年間ずっと保険料を納めていれば満額の780,100円(月額65,008円)。現行の受給資格期間の下限25年でみると、年金額は487,562円(月額40,630円)です。同じ計算を、短縮される受給資格期間の10年に当てはめると、年金は195,025円(月額16,252円)で、いわば小遣い程度にとどまります。

それでも、ご本人の失念またはやむをえない事情等で受給資格期間に足りていなかった方々には朗報ですし、ここに厚生年金(及び共済年金)が加われば、その分も「日の目をみて」上乗せされることになります。

国民年金の保険料未納率は、全国平均で37%。保険料はいま1人月額16,260円で、収入が少ないときなどに申請する全額免除や半額免除等の手間や外聞を嫌う向きだけでなく、年金制度そのものへの不信感から保険料納付を止めている方も少なくないようです。厚生年金の保険料は会社と本人の折半ですし、給与からの天引きなので負担感が小さいともいえる一方、心理的に納付自体が「後回し」にされがちな国民年金の保険料徴収はずっと厳しいままかもしれません。

このため、評論家や経済学者からは年金制度の抜本改革案がいくつも語られ、賦課方式から積立方式へ、国民年金の厚生年金への統合、年金の民営化などが提唱されています。国民年金は破綻寸前だから、大掛かりに改革しなければ手遅れになる、という攻め立て方です。

しかし、実務面で年金のことをみている私らと、「抜本的な改革」構想には近くて遠いものがありそうです。構想は理想論(あるいは空論)で、事態が悪化・切迫しているとはいえ、結局は現行の年金システムを徐々に変えていくしかないように思えてくるからです。私など、受給資格期間を現行の5分の2にまで縮める今回の決定には「大型の電卓を弾いたうえでの試算結果だとはいえ、相当に無理した期間短縮ではないか」と思っています。

日本の年金制度は複雑ながらもよくできており、情勢に合わせた調整は欠かせないながらも将来的な破綻は考えにくく、大改革を待つというスタンスは取るまでもない、と考えている次第です。社会保障費の膨張を前に、保険料の引き上げ、給付される年金の目減りという操作が繰り返されて、という弥縫策は今後も続き、それに対する老後の備えは一段と必要になってはきますが。

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