桂川通信コメント
桂川通信コメント
作成日:2016/08/01
最低賃金



今回は硬い話です。
最低賃金(時給換算)が5年連続で二けたの引き上げとなりそうです。中央最低賃金審議会が厚労相に答申した今年度の上げ幅は3%、平均23円。10月に全国平均で現行の798円が821円ほどに上がる見通しです。

そこに届いていない賃金は「違法」とする最低賃金は、企業側に支払能力が備わってきたとされた1959年に最低賃金法ができてスタート。やがて47都道府県ごとの最低賃金が労働者のセーフティーネットとして民間の時給引き上げの目安となります。昨年10月決定のいまの最低賃金は、東京の907円を筆頭に大阪858円、京都807円など(最下位は鳥取、高知、宮崎、沖縄4県の693円)。中央と地方の最低賃金審議会が毎年、労働者の賃金実態、生計費と使用者側の支払能力を踏まえて水準を示し、各労働局長が即日実効の最低賃金を公表する慣わしです。

高校・大学の新卒採用の正社員初任給が平均月18万円とすると、週40時間の法定労働時間で試算しても時給は1000円を超えます。つまり、最低賃金が適用されるのは実際上、非正社員つまりパート・アルバイトの階層。この20年ほどの間に非正社員が激増し、労働者の4割近くにまで達しているため、行政が最低賃金を民間側に指標として示し、正社員に比して劣悪なパート・アルバイトの賃金を上げるよう指導していく、という社会政策が定着してきたともいえます。

とはいえ、何事にも程度があります。自由主義経済では、事業体は売上から経費を差し引いて利益を確保し、事業の継続に努めるものの、人件費は経費の相当部分を占めて固定化しているため、収益の圧迫要因となります。賃金をいくら支払うかは本来、労働市場での競争をにらんだ経営側の収支見通しの中から決まっていくのが筋ですから、行政が最低限とはいえ、その目安を示すのは、社会政策に名を借りた「民間介入」といえなくもありません。

もちろん、政治家は左右を問わず、マスコミも世論も最低賃金の引き上げには肯定的で、批判的・懐疑的な声はほとんどないのが実情です。共産党などは全国平均で1000円以上に、とするのが年来の主張。大企業の利害を代弁する経団連などの財界も、現時点ではおおむね引き上げを容認する方向にあります。

しかし、窮屈な資金繰りを続けている中小企業にとっては、そんなに簡単なことではありません。自治体別の最低賃金をにらみながら、ギリギリの線に少しを上乗せしてパート・アルバイトの時給を決めている中小企業は珍しくはなく、従業員を社会保険に加入させる踏ん切りがつかないでいる経営者にとっては、行政が毎年引き上げを決めていく最低賃金は「お節介」と映っているだけかもしれません。

マクロ経済学のオーソドックスな教科書は、賃金の下限規制、労働コストの上昇は失業を増やす、という関係を示しています。昨今の最低賃金の肯定・容認の流れは、事業資金にゆとりのある大企業側のもので、中小企業に対しては「行き過ぎ」の一面があるのではないか。コスト削減に知恵を絞るなか、労働者を大事にしたい半面、賃金を増やしたいのに増やせない、と苦しんでいる多くの経営者にとって、最低賃金は問答無用の圧力と化しつつあるようにも思えてきます。

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