桂川通信コメント
桂川通信コメント
作成日:2016/05/17
宇治のことを少し



当メルマガ49号(1月5日発信)の書評でも紹介した井上章一さんの『京都ぎらい』(朝日新書、2015年9月刊)が今年の「新書大賞」を受賞しました。屈折の多い「京都論」で、書店の平積みには「ホントは好きなくせに」という書店員さんの手書きポップが立っていました。

『京都ぎらい』は右京区の嵯峨に生まれ育った井上さんが、市中心部に居住する「洛中」の方々の自惚れ、高慢さを笑い、理屈をこね回して「私は生涯『京都人』を名乗る気はない」と言い放つ1冊です。もっとも、ここで前の書評と同じことを書くのは芸がないので、今回は私が生まれ育ち、いま井上さんが住むという「宇治」のことを絡めて。

『京都ぎらい』にはこんな場面があります。
全日本プロレスの京都興行で、ブラザー・ヤッシーという宇治出身の悪役レスラーがリング上で「出身地の京都に帰ってきました」とあいさつした。すると、会場から「お前なんか、宇治やないか」「宇治のくせに、京都と言うな」と、いくつもの罵声が上がった。宇治は京都ではない? 罵声を聞いた井上さんは、ここに「洛中」の排他的な差別意識を感じ取ります。

確かに宇治は、京都市中心部からは遠く、当時住んでいた私の家からならJRや近鉄で京都駅まで30分ほど、京阪なら四条まで40分ほど。私自身は、ハエの幼虫と同じ発音のこの地名はあまり好きではなく(現地でのアクセントは微妙に違います)、しかし釣りやシジミ採りで遊んだ宇治川を中心に、懐かしい地であることに変わりはありません。

宇治を離れて東京の学校に通っていたときは、正直な話、京都府出身であることがアドバンテージだったこともあります。ごくまれに参加した女子大生との合コンの自己紹介で「出身は京都です」と言うと、ときどき「京都ですかあ? いいですねえ」という反応があり、何がいいのか分からないまま、「南の外れの宇治ですし、大層なことではありませんよ」とカッコつけて応えたりしていました。結果的に合コンからどうこうという展開は絶無でしたので、アドバンテージは持ちぐされになったようです。

『京都ぎらい』は山科や伏見も「洛外」で、洛中の方々は表立って又は内心密かにこれら洛外エリアを見下している、と言い募ります。私がいま参加している異業種交流組織、京都中小企業家同友会の伏見支部には「伏見の地域振興」をテーマに掲げた例会があり、そこでは「むかし一帯は伏見市(元は伏見町)で、京都市ではなかった」ことなどを足掛かりの一つに、現地フィールドワークも交えて伏見の独自性、可能性を探る試みが続けられています。

ブランド総合研究所による都道府県別の魅力度ランキングでは、京都は1位の北海道に続いてずっと2位(3位は東京、4位は沖縄)。しかし、京都といってもさまざまですし、洛中だけが京都だという感覚が今も蔓延しているのなら、私も当然、京都人を名乗ってはいけないということになります。それに、面白さや住みやすさ、食べ物の豊富さでいうと、8つの都府県に住民票を置いたことのある私の第1位は「福岡」ですし。

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