桂川通信コメント
桂川通信コメント
作成日:2016/01/06
障害年金をめぐる小冊子



 2014年夏、共同通信のスクープで「精神障害・知的障害にかかわる障害基礎年金の不支給決定率において、都道府県間に大きな格差がある」ことが判明しました。日本年金機構の各都道府県事務センターが委嘱している認定医のスタンス、判定のあり方にバラつきがあり、例えば大分県と栃木県の認定率(障害基礎年金不支給決定率)には6倍もの差が生じている、というものでした。

 これに対し、翌2015年2月、厚労省が「精神・知的障害に係る障害年金の認定の地域差に関する専門家検討会」を開き、その議論の一部が公開されました。ここに紹介するB5判105頁の冊子(書名等は最下段に)は、社会保険労務士、精神保健福祉士、研究者らが集まった全国組織の勉強会「精神障害年金研究会」のメンバーが「専門家検討会」における議論と報告を批判し、障害年金の改善をめざしていくためにまとめたものです。冊子では、研究会メンバーを中心に10人ほどがリポートを分担執筆しており、巻末には一連の動きも分かる資料編が備わっていて、経緯と現状、何が問題になっているのかがおおよそ呑み込めます。

 障害基礎年金の認定における地域差は、公的年金が2階建て(基礎年金=国民年金、報酬比例部分=厚生年金等)に再編された折、それまでの国民年金1〜2級(生活面での能力が目安)、厚生年金1〜3級(働けるかどうかが目安)の障害等級の食い違いが整合性のないまま残されたことによる、とまず概括されます。

 次いで、東京、大阪などは別にして、各道府県の精神障害専門の認定医はおおむね1人で、近年、うつ病をはじめとする障害年金の裁定請求が大きく増え続けるなか、認定基準通りに厳格に審査する医師と、公的年金の趣旨に沿って多少緩やかに審査していく医師の併存によって地域差が徐々に生じていった、という流れも見えてきます。

 そうした経緯をふまえたうえで、研究会メンバーは厚労省の「専門家検討会」による論議と一定の報告(「現状には特に問題はない」云々)に対し、手厳しい批判を加え、認定システムの改革を求めていきます。とくに、専門家検討会での論議を踏まえ、厚労省側が用意している認定審査のためのガイドラインに対しては、認定結果の「低位平準化」をもたらし、さらに都道府県単位から全国9ブロックに集約しての認定システムの改変案は、審査体制の集権化によって財務省の思惑が直接影響を及ぼし、システムの運用を一段と硬直化させる恐れがある、といったことなどを警告していきます。

 多少実務的ともいえる話で、当冊子も書店にはなく、研究会の代表に連絡して初めて有償で入手できました。「後書き」にあたる部分には「障害年金の改善を求める運動は(中略)『戦争法案』にも反対しなければなりません」とあり、私はこうした思考パターンには同意できないものの、総じてよく調べ上げた、主張のはっきりした労作といえそうです。 

 今回は当事務所が月2回ペースで発信している無料メルマガ「桂川通信」の「コメント」ではなく、毎回このメルマガに入れている「書評」の1本を再掲しました。

 ※ 『「精神・知的障害に係る障害年金の認定の地域差に関する専門家検討会」/問題点の批判と私たちの課題/「生きる権利」の保障と、障害年金のあり方を考える』(精神障害年金研究会、2015年8月刊)

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