桂川通信コメント
桂川通信コメント
作成日:2015/12/02
マイナンバー覚書2 「外部委託について」



 マイナンバーの通知カードを受け取った女房が大きな声を出しました。「こんな長い数字、覚えられへん!」――。女房は熊本の産ですが、20年近い奈良暮らしで、言葉は(中途半端な)関西弁です。ともあれ、私は重々しく諭しました。「覚える必要はありません。いや、むしろ覚えてはいけません」。さらに続けます。「あんた、クレジットカードの番号、覚えてる? マイナンバーもほとんどそれと同じ。覚えとっても、何の足しにもなりゃせんわ」

 前回私は、従業員100人以下の中小・零細企業の場合、マイナンバーの扱いは紙ベースで完結させて十分、システム開発会社などがあおっている「マイナンバー完全対応パッケージ」などを導入するのは、コストがかかるうえ、運用上の解釈が今後も変わっていくだろう安全管理措置の行方を踏まえれば拙速ではないか、しかも、外部委託には番号流出などのリスクが付いて回る、などと記しました。

 帝国データバンクが11月中旬に公表した「マイナンバー制度に対する企業の意識調査」(対象は全国の10,838社)に目を引くデータがあります。10月中・下旬時点の調査で、制度スタートに向けて「対応を完了」または「対応中」の企業は計72%に及び、民間でも準備が進んでいることが窺えます。しかし、気になったのは「対応」のために要するコスト。1社平均約61万円で、「従業員5人以下」でも約23万円、「6〜20人」では約32万円。中小・零細企業にとっては結構な投資です。

 年内には対応を終わらせるべく用意している京都のある企業(従業員50人以下)の総務担当者にこの統計データを示すと、「何に使(つこ)てはるんでしょう?」とけげんな様子でした。私は「新しいPCを買(こ)うてはるか、外部に任せてはるか、やと思います」と応えましたが、確かにとりあえず紙ベースで社内完結させる対応なら、こんなにお金はかかりません。

 私は、従業員のマイナンバーを外部に委託することすべてに消極的なわけではありません。早い話、社労士が社会保障分野の手続きでマイナンバーを預かり、実務をこなす場面は多く見込まれますし、私も、電子申請の手直しを含め、来年1月以降に向けて怠りなく準備を進めています。

 とはいえ、最初から(士業ではない)外部業者にマイナンバーを移し、扱ってもらうことには潜在的なリスクがあると考えています。受託するサービス提供業者は、資格とスキルを持った専門スタッフと、「暗号化」などによる秘密保持で「絶対安全」を謳っており、それに対して「PRが過ぎるのでは?」とは言えないものの、リスクは、大小は別にして「ある」と想定せざるをえないからです。なぜなら、マイナンバーに触れるヒトが増えれば増えるほど、漏出などのリスクが比例して大きくなると考えざるをえないからです。

 過去の個人情報流出事故の多くは、「データにアクセスできるヒト」が「故意(及び悪意)又は過失を問わず、個人情報を流出・持ち出し」したケースが多数を占めているようです。例えば、2014年夏に発覚したベネッセコーポレーションの2070万件(ベネッセの調査では3504万件)もの個人情報流出事件。似たような流出事故がたくさん起きているので、ニュースとして印象が薄くなっているかもしれませんが、あの事故は、ベネッセが個人情報の管理を子会社に分散委託し、さらに子会社も再委託で外部に任せる、という構図の中で、いつのまにか大量の個人情報が名簿業者に売却されていた、というものでした。

 個人情報が、マイナンバーを含む特定個人情報となり、その管理は個人情報保護法を上書きするような厳重な規制下におかれる、と言ってみても、外部に任せるということは、当事者ではない「赤の他人」も自社従業員のマイナンバーにアクセスできる、ということを意味します。

 私はITの先端技術を操る「赤の他人」のテクニックにうらやましさを覚える一方で(モノづくりの名人に対するようには尊敬してはいませんが)、習熟したテクニックに乗じて「余計なこと」をする余地があることもまた推定しています。この手の世界では、行政なり会社なりの防御策をチェックし、一歩上を行く、先駆けの技術でガードを突破する、ということが頻々と起きています。どう考えても、警戒するにしくはない、ということです。

 個人事業の社労士や税理士にマイナンバー記載の行政手続きを任せる場合も「外部委託」です。しかし、委託元(依頼元)と委託先(依頼先)の間に1対1の信頼関係があることが委託契約の前提で、そうした対人信頼関係の構築よりも、手続きの手間省き・効率化を意識した「別法人」に対する外部委託は、繰り返しますが、コストを要するだけでなく、上記のようなリスクが付いて回るといわざるをえません(以上は、士業以外の業者に対する「営業妨害」には当たりません)。

 そんなことを書きつつ、おしまいは臆面もなく、当事務所のPR。マイナンバーを扱う行政手続きの事務代行をも請け負う当事務所では、社会保障関係手続きでマイナンバーの管理を担うだけでなく、それ以外にも多くを手掛けています。給与計算や、マイナンバーを使わない労働社会保険手続きの代行サポートなど。

 このなかで私が得意分野にしているのが「助成金フル活用」です。数十種におよぶ各種助成金が使えるか、使えないか、あたりからリサーチに入り、申請できるとあれば、依頼元の手間ひまを最小限に抑えて準備を進め、受給開始にまで持ち込む。その一連の過程の勘どころが分かってきた、と自負している昨今です。

 ともかくも、マイナンバー制度の行方は、久しぶりに(私にとっては)血が騒ぐテーマになってきました。随時、実務とウオッチングと情報収集を重ね、いずれ3回目の「マイナンバー覚書」をお示しすることになれば、と意気込んでいます。 

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