桂川通信コメント
桂川通信コメント
作成日:2015/07/17
多数決



 客が選んだ単品1種しか出さない居酒屋があるとします。
 何人で行っても、注文できるのは大きな鉢に盛った1種類のつまみ(さかな)だけ。そんな豪快な品出しが自慢の店に9人でがやがやと入店します。さて何を、と品書きを眺め、やがて4人が「なまこの酢の物」、3人が「冷奴」、2人が「肉じゃが」を所望。しかし、9人でも店は「大鉢の一品」しか出さない決まりなので、ここは多数決です。三者択一で票を集めた「なまこ」が総意としてオーダーされました。

 ここで青くなったのが「なまこ」を選ばなかった冷奴と肉じゃがの好きな5人。実はこの5人は「なまこなど、食べるだけでなく、見るのも嫌い」なナイーブな方々ばかり。このとき、多数決でなまこを押し付けられた5人はつまみなしで呑むだけ、あるいは死ぬ思いで大鉢に箸を出すほかないのでしょうか。

 「多数決」をめぐっては「5階建てマンションの悪夢のような逆説」というのもあります。
 各階に10戸ずつが住む5階建てマンションのエレベーターが老朽化し、とくに上の階を中心に早急な改修工事を、という声が上がりました。管理組合の総会があり、議題に上げて改修の賛否を取ろうとしたところ、過半数の賛成があればという「多数決の原理」に沿った声が上がったのに対し、「費用がバカにならない。改修してもしなくてもどちらでもいい」という2階の「消極派」らに高層階は譲歩し、「5分の4」の賛成があれば、全戸の共同負担で改修しようという展開になりました。

 この間、ずっと黙っていたのが1階の住人です。日常的にエレベーターは使わないので「費用を分担する改修工事など迷惑」というのが本心だったからです。さて、採決。1階の「やる気のなさ」が伝染したのか、多数決で賛成票は「5分の4」に至らず、改修工事は否決されました。

 腹立ちが収まらないのが、3階以上の住人。否決の後、彼らは1階の住人らを非難し、攻撃し、マンション内で根回しを重ねて意表をつく議題を考え出し、臨時総会を提案します。エレベーターの改修費用は1階の10戸が共同で負担する、総会での5分の4以上の賛成があれば、この議案は採択される、という無茶なものです。1階の住人は「話は先延ばしになったはず」と油断し、多くは委任状を出して総会を欠席。1階に負担を押し付ける議案はたちどころに採択された、ということです。

 思わせぶりな書き方をしましたが、多数決にはそんな矛盾・いびつさを許す余地があります。衆議院の小選挙区制では「得票率が低くても多数派になる」という倒錯が当たり前になっていますし、似たような話は現実に少なくはありません。多数決は、少数派の保護・尊重があって初めて手続きとして正当なものになる、という声はあります。しかし、長年、何につけ少数派にくみすることの多かった身からすれば、保護・尊重などお題目にとどまるのでないか、と思うこともしばしばです。 

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