桂川通信コメント
桂川通信コメント
作成日:2015/05/02
労働時間の通算(続)



 前回の通信で「同じ日にA社、B社と勤務を掛け持ちするダブルワーカーの労働時間は通算される。1日に8時間を超える労働に対する時間外割増は、後から労働契約を結んだ会社が支払う」云々という労働基準法の「解釈」についてコメントしました。すると、読者の方々から大別して二通りの感想が届きました。

 一つは「そんな話は知らなかった」という反応で、「いいことを聞いた」というもの。もう一つは、主に同業の社労士からで、原則論からはそんな理屈も成り立つかもしれない、しかし実務上、時間外の上乗せ請求は難しいのでは、という見解でした。

 というのは、複数の会社で働く労働者の1日8時間を超える労働時間に対し、後から労働契約を結んだ会社が現実に割増賃金を払っている例はほとんど存在しない。また、労働者が採用されて働き始めた後、時間外を要求する例もほとんどない。労基法の解釈は、賃金管理のずさんな会社に労働者がクレームをつける際、労働者側のよりどころになることはあっても、それが実地で役に立つことは実際上、考えにくいということでした。

 言い換えれば、採用の際、合意のうえで交わされたという体裁の労働条件通知書(兼労働契約書)で明記されている以上の賃金を会社が支払う義務はとりあえずなく、後になって割増賃金を求めても拒まれる可能性が高い、ということです。あるベテラン社労士からはこんな助言もいただきました。「行政当局ならともかく、社労士がそんな原則論を持ち出しても空しいのでは? あなたがそんな建て前にこだわっている社労士だということになれば、顧客になる経営者の方も嫌がるはず。残念ながら、それが現実です」

 同じことは、例えば会社が実施する定期健康診断にも当てはまります。労働基準法から分かれて生まれた労働安全衛生法は、1人でも労働者を使用する事業主は、年1回以上の定期健康診断を(会社の費用負担で)実施すべし、と義務付けています。

 しかし、資金繰りに追われ、福利厚生にまで十分な手が回らない零細・中小企業の経営者は少なくありません。従業員思いの事業主であっても「定期健診を実施したいのはやまやま。いずれ業績が上向き、余裕が出てきたら導入したい」と考えている方々が多く、そこに労働法規に基づくダイレクトな原則論を持ち出しても敬遠されるか、迷惑がられるだけ、ということのようです。

 以上のように、前回「異なる勤務先をまたがった労働時間の通算」を持ち出したのは、勇み足だったようにも思えてきます。撤回はしないものの、実際と建て前の間でいささかバランスを欠くコメントだったと思い直し、あえて「続報」としました。 

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