桂川通信コメント
桂川通信コメント
作成日:2015/04/17
労働時間の通算



 A社で朝から夕方まで8時間働き(+休憩1時間)、退社して夕食後、夜8時から10時まで近くのB社でバイトする、という労働者がいるとします。というより、こうした「ダブルワーカー」は少なくありません。より多くの収入を得るため、1日に8時間+2時間でも働きたい、または働かざるをえない、という方々です。

 労働基準法32条では、使用者(会社側)は休憩時間を除き、週に40時間、1日に8時間を超えて労働者を働かせてはならない、と規定しています。商業や飲食店、保健衛生関連などで、従業員10人未満の事業場(特例対象事業)では週44時間までOKですが、この場合でも1日の法定労働時間は8時間まで。みなし労働時間制や変形労働時間制を採用する場合は別として、8時間が1日の労働時間の上限になっています。

 とはいえ、時間外労働(残業)は大抵どこにでも付いて回ります。そこで、1日に8時間を超えて労働させる際に必要なのが、労基法36条に基づく労使協定(三六協定)で、この協定を労組または従業員の過半数代表と結び、労基署に届け出て初めて「時間外労働(および休日労働)」が認められる、という手はずになります。

 前置きが長くなりました。さて、冒頭に示した複数の会社(事業場)で働くダブルワーカーの場合、通算して1日に10時間働いているため、法定労働時間の8時間を超えた2時間は「時間外労働」になるのでしょうか。つまり、この労働者はB社に移動し、勤務シフトに入って以降はすべて「残業」扱いになるのでしょうか。

 終業時間までに作業が終わらず、時間外で働いた場合は、三六協定に基づき、残業時間には25%以上(残業が月60時間を超えた部分は50%以上)の割増賃金が上乗せされます。朝から夕方まで工場で勤務し、引き続き会社の事務所で仕事したとすれば、労働時間は「通算」され、8時間を超えた部分が割増賃金の対象。しかし、A社とB社を掛け持ちして働く場合、1日の労働時間は同じように「通算」できるのか、ということです。

 一般的な理解はたぶん、A社とB社で連続して仕事していても、B社は別の会社だから、労働時間の計算は別々だろう、といったあたりではないでしょうか。少なくとも私は(恥ずかしながら)そう思い込んでいました。

 ところが、違っていました。別の会社で働いていても1日の労働時間は通算され、くだんの労働者の場合、夜のバイトの2時間は「時間外労働」にあたり、B社はこの2時間については割増賃金を支払う必要がある。厳密にいうと、労働者と労働契約を「時期的に後で結んだ」会社が割増賃金を支払うとなっていて、夜のB社での勤務が後から始まったのなら、B社はこの方の1日の労働時間を通算し、8時間を超えた分について時間外を出さなければなりません。法定労働時間を超過することを確認したうえで労働者を雇い入れているはず、あるいは雇い入れるべきだ、という趣旨です。

 以上は、今月から非常勤で通い始めた厚労省関係のある行政機関が保管している「近年の労働相談事例」を読んでいて気づいた話です。職場の周囲に聞いても「労基法ではそうなっている」ということで、実際上「後で労働契約を結んだ」会社が、ダブルワーカーの給与明細に法定を超えた時間数の割増をきちんと入れているかどうか、はまた別の話。第一、別の所でも働くことになった労働者が、通算して8時間を超える勤務について「残業代をつけてほしい」と言い出せるかどうか、認められるかどうか……。

 労働時間と賃金は、労働法規における最重要のテーマです。しかし、私が前に勤めていたのは、労働時間の管理などほとんど誰も気に掛けない会社でしたし、水曜の夕方に流れる「今日はノー残業デーです」みたいな館内放送など、聞こえないふりをするだけ。なので、理屈では分かっても、労働時間の管理については実感が及ばないのが実情です。もっと現場のことを知らなければ、と痛感しています。

お問い合わせ
■高田社会保険労務士事務所/■〒612‐8083 京都市伏見区京町6‐51‐1 ハイツ美好103/■TEL&FAX 075-748-6068/携帯電話090‐9881‐5702

メールでのお問合せ