桂川通信コメント
桂川通信コメント
作成日:2015/04/03
モンスター社員



 流行語にもなった「ブラック企業」より、言葉として古そうなのが「問題社員」。職場でのルールをわきまえず、自分勝手で、同僚や上司には反抗的、ウソや誇張が多く、解雇騒ぎになると徹底的に会社側と争う――。経験豊富な社労士、石川弘子さんが書いた『あなたの隣のモンスター社員』(文春新書)は、そんな広いくくりの「問題社員」のエグいところを煮しめたような「モンスター社員」の実例を詳しくリポートしています。

 例その1:面接で「早く仕事を覚えて会社に貢献したい」と答えて運送会社に転職した20代後半の男性。しかし、遅刻が多く、顧客の荷物を破損させても謝罪せずその場から立ち去るなど、問題行動が目立った。ある日、酒気帯びで出社してきたことに上司が怒り、帰宅させたところ、母親から「過重労働で息子が過労状態に陥った」と抗議の電話。会社側が「1カ月の平均労働時間は215時間で、長いとは言えない」などと文書で答えると、母親は「事実無根。不当解雇などの慰謝料として300万円支払え」と請求してきた。結局、弁護士が間に入り、2カ月分ほどの賃金を払うことで退職。この会社には「時間外割増賃金」の規程がなかったことが、問題社員側につけ入るスキを与えたようだ、といいます。

 例その2:メーカーの経理担当として10年以上働いてきた30代の女性には小学生の子供がいた。仕事は早く、ミスも少ないので会社側も評価していたが、勤務中、子供に毎日電話したり、放課後や夏休みには職場に連れてきて遊ばせたり。会社の備品を持ち帰ったり、職場からPTAの連絡FAXを送ったりも。注意すると「女性差別だ」「会社は、子育てしながらも働ける職場環境を作るべきだ」と逆切れ。石川社労士と経営幹部、本人を交えた話し合いも決裂し、自己退の後、女性はネットで会社に対する中傷を繰り返した。女性に経理の仕事を任せるあまり、勝手な行動を大目に見てきたのがトラブルを大きくした。職場のルール(就業規則など)を明確にしていなかったことも、響いたようだ、とのことです。

 例その3:部品会社に中途採用された30代の男性は、入社してまるで協調性に欠けることが判明した。周囲に対して暴言と会社批判(「会社の体質は古い」など)を繰り返し、その都度、配置転換され、やがて最後の持ち場で暴力沙汰を起こした。会社が反省文を求めても「書けというから書く。反省すべき点などない」という一文を寄越しただけ。同僚や上司に対する暴言もパワハラに該当する、という石川社労士の助言もあったものの、男性側は弁護士を立てて500万円の損害賠償を求めてきた。ただ、暴言をたまたま収めていた録音があったことでその弁護士も歩み寄り、「いくらかの金額」を支払って自己退してもらった、ということでした。

 全部ぼかしてあるとはいえ、他にも多くの事例が紹介されていて、参考になります。モンスター社員には「入社前からのモンスター」と、入社後の人間関係や仕事・生活上のストレスからモンスター化してしまうタイプがあり、元々からのモンスターであっても採用時の第一印象は良く、まともな新社員との見分けは付け難いとのこと。

 また、モンスター社員といえども、会社側はいきなりの解雇はできず、問題が起きるたびの記録を踏まえた「退職勧奨」に抑えるべきだ、と忠告。さらに、処分の手順を明記した就業規則を整備すること、パワハラ・セクハラの研修を実施すること、経営側と従業員で経営ビジョンを共有することの重要性などを強調しています。

 私も前職時代、モンスターとまでは言わないものの、問題社員に近い20代後半の青年がそばにいたことがあります。今と同様、割と温厚だった私でもときどき声が大きくなるほどで、付き合うこちらが消耗しました。彼は結局、数年で退社し、その後の消息は不明。ただ、程度の差こそあれ、ヘンな社員はどこにでもいる、と実感したものです。

 もっとも、「ブラック企業」と「モンスター(問題)社員」を結び付けて、つまり「この会社はブラック企業だ」と言い募る社員の多くは「問題社員」ではないか、といった見立てには疑問が残ります。というのは、ここ10年ほどの間に関心を集め始めたブラック企業の多くには、売上または利益至上主義の強引な経営拡大志向、皮肉な結果としての大量採用と大量退職、労働法規のグレーゾーンでなら無茶も許されるという都合のいい一方的解釈など、現在の経済社会における構造的な一面があるといえます。

 これに対し、問題社員は、構造的に生まれる、というより、個別ケースにとどまることが多い。ブラック企業側が「我々の指導について行けず、落ちこぼれるのは、問題社員だ」と強弁して自らの構造的な無理・矛盾を正当化することには、受け入れにくいものがあります。ブラック企業と問題社員は別の話だと言った方がいいでしょう。

 ともあれ、人を雇って働いてもらう、というのは大変なことです。とくに日頃付き合いのある中小企業の経営者の方々は、大企業とは違い、自ら身を乗り出して労働者を雇用し、育て上げる努力を重ねておられるわけで、その点、立派だなあ、と敬服します。

 という次第で、ベテラン社労士から「実務の顧問契約先は20社ぐらいまでなら1人でこなせる」と聞いたことがあり、私はまだそこまでには至っていませんので、当座はフリーランスの個人事業で十分です。問題社員にどう対応するか、という経営者からのご相談にはきちんと準備・勉強して対応していきますが、とりあえず、一人きりのフリーランスは気楽で、自由が効きますので。 

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