桂川通信コメント
桂川通信コメント
作成日:2014/11/17
解散・総選挙を前に



 衆院解散・総選挙の雲行きになってきました。いつも通りというか、確かにどこか煮詰まってきた雰囲気は、街外れにいる身でも感じていました。

 ところで、今月発行の月刊誌『中央公論』12月号の特集は「人口激減が突きつける雇用激変」。雇用を中心にした労働問題をめぐるインタビュー・座談会や評論・リポートが計9編収まっています。『中公』は中高年向けの総合雑誌としては『文藝春秋』『世界』などと並ぶ「現存組」ですが、読売グループに入って以降、風合いが変わってきたため、私は最近あまり触らず。しかし時折、地味ながらもシャープな論考が現れるので、新聞広告の目次をみて手元に置くことがあります。

 さて、今回の特集はざっくりいうと、今の自公政権が押し出す「経済重視」指向の、いわゆるアベノミクスの労働・雇用政策に対する賛否両論を並べたものです。アベノミクスの評価はさまざまで、私はどちらかというと距離を置いて動きを観察。という次第で、解散・総選挙を前に、特集を絡めたその辺りの雑感を少し。

 まず、アベノミクス路線を推進する側の発言では、塩崎恭久厚労相のインタビュー「安倍政権が目指す雇用改革のゆくえ」。ここは総論みたいなもので、目新しさはありません。日経新聞の論調をご存じなら、ほとんどあれそのままといってもいいかもしれません。

 次いで、雇用の流動化の妥当性あるいは一段の加速を求める経済学者からは、小峰隆夫法大教授の「労働者不足が経済を制約し始めている」と、鶴光太郎慶大教授の「『限定正社員』から日本人の働き方を変える」。この2本も、だいぶ前から大企業の利害を代弁する経済団体や市場主義経済をアピールする多くの経済学者の政策提言と同じ土俵に立っての主張です。残念ながら、こちらもあまり新味はありません。

 話題になっている「女性の登用促進」をめぐって論を張っているのが、山口一男シカゴ大教授の「日本的雇用システムが女性の活躍を阻む理由」。きちんとした論考で読ませますが、日本企業(中堅企業以上)が内在させる、対女性の「間接差別」の縮小・撤廃の提言は結論が総論的、抽象的にとどまっているようにみえます。

 「女性の登用」では例えば、特集内の覆面座談会「人事部は“働かないオジサン”をこうみている」(業種別4社の人事部課長が参加=性別不明)の中にこんな発言があります。「女性登用という政策ありきで登用してしまうと不幸な結果を招く」「(女性の)抜擢といっても下駄を履かせて昇進させたというのが正直なところ」「男性社員からは逆差別だという声も上がっている」云々。

 こうしたいわば本音ベースの現場の声に対し、山口教授らの提言はどこまで実効性があるでしょうか。政策提言(建て前)と現場対応(本音)の葛藤の中で徐々に情勢は変わっていくだろうとはいえ、わずかに疑問が残ります。

 というわけで、私が特集の中で最も共感できたのは、古賀伸明連合会長の「改革の優先順位が間違っている」。安倍首相が口にする「世界で最も企業が活躍しやすい国をつくる」という市場主義経済のスローガンに対し、古賀会長は「政治の本筋は国民が暮らしやすい国をつくること」であり、その手段の一つとして「企業が活躍しやすい社会」が必要なだけで、企業のために国民が存在しているのではないと語り、いわば「優先順位」が逆になっているといいます。

 また、市場主義経済陣営の「労働規制の緩和と雇用の流動化」キャンペーンに向けては、社会保障の面からみても「約2000万人の非正規労働者の処遇改善が不可欠」と当然の指摘。陣営が指し示す「外国人労働者の受け入れ拡大」や、ホワイトカラー・エグゼンプションの導入がもたらしかねない危険性にも触れています。いかにも連合会長という傾きこそ窺えるものの、政権与党と経済界、さらに経済学会の主流派がタッグを組む「もっと規制緩和と雇用の流動化を」という流れに、ひとり労働界が対抗している構図にみえます。

 以上、相変わらずの硬い話。中小企業の経営者をサポートできれば、という立場に身を置いたからこそのコメントになったようです。ボーナスなし、退職金なし、年次有給休暇もあってなきがごとし。けれど、何とか頑張っていい会社にしたい、従業員に報いたい、と努力されている現場の経営者たちと、規制緩和や雇用の流動化をOKだとする側は、見た目はともかく、実は大きくすれ違っています。

 

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