桂川通信コメント
桂川通信コメント
作成日:2014/07/02
語呂合わせ



 「一般に、病院にハマる人は、風呂慣れた一派です」――。何のことか分からない、この気味の悪い「呪文」は、社労士資格試験向けの「暗記用語呂合わせ」のうちの一つです。

 試験科目の「健康保険法」には、保険診療で自己負担が過大になった場合、健保側が一部を補う「高額療養費」の規定があります。試験対策上、その計算式を覚える必要があり、医療を受ける方が70歳未満で、所得が「上位」でも「低所得」でもない「一般」の場合、「高額療養費算定基準額」を求める式は、

 「80,100円+(療養に要した費用―267,000円)×1%」

ということになっています。

 しかし、なぜこんな式になるのか分からず(テキストも予備校の講師も、まるで説明もせず)、分からずにこのまま覚えることには無理がある。そこで「一般に、病院にハマる人(80,100円)は、風呂慣れた(267,000円)一派(1%)」みたいな、強引な語呂合わせにすがるわけです。こうした言葉遊びは、社労士試験だけでなく、あちこちで無数に語り継がれています。「水兵リーベぼくの船」とか「火縄くすぶるバスティーユ」とか。

 一昨年の社労士試験で私は、これら語呂合わせのおかげもあって合格圏内にぎりぎりで滑り込みました。直前の模試ではC判定ばかりだったことを思えば、ほとんどまぐれ。しかし、いま実務を少しずつ手掛け始めて分かってきたのは結局のところ、資格試験の勉強、とくに語呂合わせに頼った情報・知識など、ほとんど何の役にも立たない、ということでした。

 例えば、上の「高額療養費算定基準額」の式など、仕事ではあまり出てきませんし(病院の窓口で説明されることはあります)、必要があれば、正確を期して「社会保険労務六法」などに当たる方が無難です。うろ覚えのまま、金額のケタを間違えたら大変なことになりますし。受験生を悩ませる雇用保険法「特定受給資格者の基本手当・所定給付日数」の、あのいびつな表の書き方を自分なりに見つけたときは嬉しくなりました。しかし、いま思えば、あんな表など社労士手帳に載ってますから、無理に手作りするまでもない、という次第です。

 数字の表や計算式だけではありません。業界用語、さらに法律や規則や通達で定められた「解釈」や行政指導の実際など、現場で出合う事柄と、試験勉強で覚えた事柄は似て非なるもの。そこをカン違いしないよう、心掛ける必要はあります。

 計8科目におよぶ社労士試験は他の士業の試験に比べると案外と実務直結型のようです。ベテラン社労士の中には毎年8月の試験を必ずフォローし、全部を再確認して知識レベルを維持している、と語る方もいます。それでも、試験外の現実の中で身に着け、覚え、工夫していくことこそが勉強です。

 国民年金の国籍要件は昭和56年末で撤廃されました。これを覚えるための「日本に来ないい?(57年1月1日)」は歴史に残る語呂合わせだと思います。とはいえ、そんな試験対策でしか使えない暗記より、最新の行政手引きや労働判例を調べることの方が10倍は大切だということです。

 ※参考文献 澤田省悟『平成24年度版 楽しく覚える“社労士”語呂合わせ』(TAC出版、2012年4月刊)
 

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