桂川通信コメント
桂川通信コメント
作成日:2013/09/29
リニア新駅を奈良に?



 東京ー大阪間を67分で結ぶ「リニア中央新幹線」の駅を奈良に作ろう、その「奈良新駅」は「生駒」こそが最適地ーー。生駒市在住としてそれなりに興味が持てる公開シンポが29日市内であり、2時間強の講演+パネル討議を聴いてきました。入場者はざっと150人で、会場の半分ほど。

 リニア新線の事業主体はJR東海で、まず東京(起点は品川)ー名古屋間の286`を2027年に開通させ、2045年には大阪までの438`に延ばす。総建設費は9兆300億円で、整備新幹線の「順番」を待つことなく、JR東海が原則、負担していく。途中駅は神奈川(相模原市)、山梨(甲府あたり)、長野(飯田あたり)、岐阜県駅の四つで、名古屋以西は未定。ただ、整備計画を示す「全国新幹線鉄道整備法」には終点・大阪の手前は「奈良」と記されており、在来鉄道網との良好なアクセスなどを掲げて生駒市、奈良市、郡山市など4地点が誘致に手を挙げている。一方、計画ルートから外された京都が一連の流れに反発し、「京都にこそ新駅を」と巻き返しを始めたーー。以上が最近のおおよその流れです。

 シンポで生駒市長が訴えた「奈良(生駒)新駅」のメリットは、@大阪東部、京都南部を含めた後背人口は100万を軽く超えるA新駅は京阪神の「東の玄関口」になりうるB新駅予定地の北には関西学研都市が広がるC市北部に200f以上の更地があり、事業費2000億円を超えるとされる地下駅は造らなくてもいい(地上駅で済む)ーーなど。ただし、そのためには近鉄けいはんな線・学研北生駒駅あたりから新駅予定地に向かって北に鉄道新線を延ばし、そこから東進して近鉄京都線やJR学研都市線などに接続させる必要がある、とのこと。率直にいって、まだいくつもの課題・難題が待ち構えている、といった気配です。

 基調講演をした大学名誉教授は「東海道新幹線の運行密度が限界に達し、高速交通手段の新増設は急務」と訴えたうえで、こんなふうに続けました。「飛行機は大量輸送手段としては容量が小さく、東海道新幹線の『複々線』化構想は東海、東南海地震による津波襲来のリスクで後景に引き始めた。世界的にも、高速鉄道の建設・運用技術をめぐって厳しい競争が始まっている。だから、リニア新線は必要」ーー。

 しかしそんななか、私がシンポを聴いていて最も強く感じたのは、次世代新幹線のリニアを実現しようとする一群のエリートたちの執念です。「より速く」「より長い距離を」「より大量に運べる」公共交通手段の実現を至上命題とする、技術エリートの「使命感」と言い換えてもいいかも知れません。これまでの巨額の先行投資も無視できない、ということでしょう。

 公共交通手段は社会資本です。この社会資本には「社会インフラ」と「経済インフラ」の両面があります。過疎地で赤字のまま走っている乗合バスは、地域住民の便益のための「社会インフラ」で、今は多くの場合、自治体や国は補助金を出してでもこれを守ろうとします。

 一方、新幹線もリニア新線も「経済インフラ」の典型で、「時間の効率」を中心とした経済効果を重視します。高速道路の建設などをめぐり、時折「タヌキやクマが使うだけではないか」みたいな中傷が聞こえてきますが、これは、高速道路の「社会インフラ」としての側面ではなく、採算(投資に対する見込みの収益)を重視する「経済インフラ」の側面からの批判だといえます。そして、技術エリートや交通族(鉄道族?)を自任する一群の政治家たちは、「経済インフラ」としてのリニア新線に執念を燃やしている、という次第。この執念、あるいは「どこにも悪気のない使命感」は「自動運動」のように動き続け、引き継がれていきます。イヤな言い方をすれば、一種のイデオロギーと化すことが多い、と私は考えています。

 というふうな具合で、自動運動の勢いでリニア新線が建設されていくことに、残念ながら私は、積極的な意義をさほどには見出せていません。簡単にいえば、いま2時間半の東京ー大阪間が67分に短縮されることがどれほどのものか、そんなに画期的なことか、その効率にどれだけの差し引きのメリットが見込めるのか、と思うわけです。そうした無理をするぐらいなら、もっと「社会インフラ」に投資を、とも思います。

 リニア新線はJR東海による民間設備投資なので、とりあえずは公共事業には当たらず、従って税金の無駄遣いとは言えない一面はあります(今後どうなるか、は分かりません)。しかし一方で、景気浮揚・経済成長にプラスだという「乗数効果」は一部の経済評論家たちが唱えるほど大きくはないとの見解もあり、「67分への短縮効果」ともども、アテが外れる可能性が小さくない、とも考えています。せっかく公開シンポにまで出掛けたのに、申し訳ないことです。

 計画されている東京ー名古屋間(40分)は72%がトンネルだとのこと。「旅行」や「出張のための移動」というより、小田嶋隆さんがネットのコラムで書いているように「運搬」と言った方がいいでしょう。今さらながら、なんでそうまでして急ぐ必要があるのかーー。新駅が見込み通り奈良にできるか、京都が「奪回」するかは、突き放すようですが、今のところどちらでも構いません。もちろん、元記者としては今後、どんな展開となるのか、興味津々ではありますが。
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