作成日:2024/08/03
労働時間改革
今回は本業絡みの硬いテーマ。労働時間、とくに法定の上限時間を超える「時間外労
働」に対する対価、つまり「残業代(時間外割増賃金)」についてです(便宜上「休日
労働」に対する休日割増や、午後10時〜翌午前5時の「深夜労働」に対する深夜割増も
含めます)。
労働時間が1日8時間、1週間40時間を超えると原則、時間外労働として扱われ、会
社は従業員に25%の割増賃金を支払います。週に1日以上確保すべき休日に働かせた場
合は35%増しの休日割増、深夜労働については時間単価の25%割増を加算して支払うこ
とになっています。
時間外労働等に対する割増賃金の支払い義務は、使用者へのペナルティ、つまり労働
者にはなるだけ残業させないようにする残業減らしの効果がある、とされます。使用者
としては、決まった業務時間内で仕事が終わる一方、労働コストを減らし、さらに雇用
する労働者の健康管理につながります。残業させるのはやむをえないときだけ、という
ことです。
ところが、労基法の改正等で労働時間管理と割増賃金のセットが強固になったため、
労働者にとって時間外労働等の割増賃金は、基本給を上回る恩恵と受け取られ、負担の
大きい長時間労働が減るというより、残業を増やすことにつながるケースが目立ちまし
た。残業代がないとやっていけないという声は、使用者にとっては残業を抑制する効果
をもたらす、という割増賃金の一面と矛盾します。
当たり前のことを記すのは、最近こうした時間外等の割増賃金にかかわる相談が増え
てきたからともいえます。労働時間管理に向けた労働者の自由度が高まる裁量労働制や
、成果型の「高度プロフェッショナル制度」(日本版ホワイトカラー・エグゼンプショ
ン)の導入が、こうした二面性、残業をめぐる労使間の思惑の対立を打開する一端にな
るのでは、とも思われました。ただ、実際はそうはなっていないようです。
例えば、2019年4月の導入から丸5年の「高度プロフェッショナル制度」の現況はど
うか。対象労働者は金融商品開発やディーラー、証券アナリスト、コンサルタント等で
年収1075万円以上に絞られるなど要件が厳しいためか、今年3月末時点で全国の29社の
1340人。騒がれた割には微々たるものです。制度導入は成功だったのか、何ともいえな
いようにも思えてきます。
特定の「先進的な専門性の高いジャンル」に対象を絞らざるをえなかった、という厚
労省の、実際上あまり熱心ではなかったスタンスが透けて見えるような気もします。当
時、私は某労働局に非常勤職で週3日ほど出務していましたので、「高度プロフェッシ
ョナル制度」に対する厚労省内のやる気のなさは窺えました。