作成日:2024/05/03
映画を7本
つなぎ風にまたレンタルで邦画。どれも小説またはノンフィクションが原作で、読了
済みなら映画は原作をどう扱ったか確かめられそうですし、未読なら映画であらましが
分かり、ときには原作を読む手間も省けます。2010年以降の封切で、登場する男女の俳
優は一部を除きほとんど知らない若手ばかり。書いているうちに以下、いたずらに長く
なって申し訳ありません。
■本木克英監督 『シャイロックの子供たち』(2023年2月公開)
半沢直樹シリーズなどの池井戸潤さんの同名の長編小説が原作(未読)。例のごとく
都市銀行の支店絡みの不正融資、それを見抜く本店審査部の査察等をサスペンス風に描
いています。キャラが立っているというのか、配役の演技はメリハリが効いています。
とはいえ、陰謀がうごめくストーリーながら、割と先が読める展開。どこかで読んだ
(観た)ような場面もあり、シナリオのインパクトは弱め。改めて原作を読むまでもな
いか、との感想で終わりました。
■三木孝治監督 『アキラとあきら』(2022年8月公開)
こちらも池井戸潤さんの同名の長編小説が原作(未読)。小学生時代に接触した、下
の名前が同じ2人の少年それぞれが長じて同じ都市銀行に同時に入行し、互いにライバ
ル視して競い合う、という人間ドラマ。
こちらも分かりやすいストーリーで、2人の対照的な生き方、対立から友情へという
展開もうまく描かれています。映画で楽しめたので、改めて原作を探すまでもないか、
と思った次第です。
■木村ひさし監督 『屍人荘の殺人』(2019年12月公開)
刊行当時の「このミステリーがすごい!」等の人気ランキング3つでいずれも1位を
取った今村昌弘さんの同名の長編デビュー作の映画化。私は原作を読んでおり、あの面
白さがどう描かれているか、に関心が向きました。しかし率直にいって、原作の奇抜な
面白さは窺えないまま。シナリオが今一つだったような気がします。
原作を読んでいない方、映画を観ていない方双方へのネタバラシになるヤボは避けた
いので、これ以上は書きません。ただ、原作のあの荒唐無稽な無茶ぶりと奇妙な辻褄合
わせは、活字だからこそ楽しめたのでは、とも考えました。
■瀬々敬久監督 『ラーゲリより愛を込めて』(2022年12月公開)
辺見じゅんさんのノンフィクション『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』(1992年、
大宅ノンフィクション賞受賞)が原作。1945年、満州でソ連に拘束され、シベリアで抑
留された実在の日本人捕虜が残した遺書を戦後、6人の元捕虜たちが遺族に伝える、と
いう実話に基づく原作をほぼ忠実に再現した佳作になっています。
私は原作を読んでおり、映画化もそこそこうまくいっているのでは、と思いました。
主人公(二宮和也)、日本に残されたその妻(北川景子)の配役は、昭和生まれの私で
も活躍は知っており、なかなかの熱演だ、と感心しました。
■中田秀夫監督 『インシテミル』(2010年10月公開)
アガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』等の東西のミステリーを下敷き
にした米澤穂信さんの長編サスペンス小説が原作(未読)。7日間の拘束ながら時給11
万円という求人に釣られて集まった男女10人が、奇怪な洋館の地下で順に殺されていく
、というクローズドサークルものです。
タイトルは、原作者がミステリーに「淫(いん)してみる」から付けたとのこと。貴
志祐介さんの『悪の教典』(高校教師が生徒37人を殺す)、高見広春さんの『バトル・
ロワイヤル』(中学生同士42人が殺し合う)などのデスゲームの系譜に連なるものでし
ょうか。ホラーとサスペンスとパニックを併せたような小説とその映画化には、好みに
よるとはいえ、未読の原作を読むまでもない、という気分になりました。デスゲームは
グロいからです。
■前田和男監督 『破戒』(2022年7月公開)
被差別部落問題を扱った島崎藤村の同名小説3回目の映画化。木下恵介監督(1948年
)に続いた市川崑監督(1962年)以来、60年ぶりの再編集映画とのこと。原作はむかし
読んだはずながら記憶は漠然とし、木下作品、市川作品とも観たかどうか判然とせず、
半ば新鮮な気配で観ることができたように思います。
ただし、主だった登場人物の動きは抑え気味で、淡々としてお上品で、拍子抜け。主
人公の丑松が小学校の教員を辞めた後の様子も原作とは違っているように思えました。
■三宅唄監督 『ケイコ 目を澄ませて』
今回最も良かったのが、こちら。聴覚障害を抱えた主人公が、ボクシングのトレーニ
ングを積み、リングに上がっていく様子を丁寧に描いていきます。全編音楽なしで、映
像は16ミリフィルム特有のざらついた感触があって印象に残ります。
原作は、元プロボクサー小笠原恵子さんの自伝『負けないで!』。ほとんどセリフの
ない主役(岸井ゆき)の演技が際立っていましたが、ボクシングジムの会長役(三浦友
和)もシブく、感心しました。